小規模事業者では、一人の従業員が複数の業務を兼任することが日常的にあります。
この記事で取り扱う小規模事業者は、下記のように中小企業基本法第2条第5項に規定されています。
- 製造業その他では、常時使用する従業員が20人以下
- 商業(卸売業・小売業)・サービス業では、常時使用する従業員が5人以下
そのため、「きっと誰かがやっているだろう」という曖昧な認識から、業務が手つかずのまま放置されてしまうトラブルが発生することがあります。
このような業務放置トラブルは、会社全体の業務効率を低下させ、顧客や取引先からの信頼を失うことにもつながります。
本記事では、小規模事業者に特有の「きっと誰かがやっている」という思い込みによる業務放置問題について具体例を交えて解説し、その原因を明らかにします。
さらに、業務の漏れを防ぐための具体的な解決方法も詳しく紹介します。
1. 小規模事業者の業務放置トラブルとは?

「えっ、これ誰もやってなかったの?」頻発するリアルなトラブル事例
小規模事業者では一人ひとりが複数の業務を担当するため、「誰かがやっているだろう」という曖昧な認識がトラブルを招きやすくなります。
特に、以下のような状況がよく発生します。
例えば、食品卸業を営む小規模事業者の場合。
従業員Aさんは「受注後の発送手配はBさんが行っている」と思い込んでおり、一方Bさんは「Aさんが対応するはず」と認識していました。
その結果、顧客への納品が遅延し、大切な取引先からクレームを受ける事態にまで発展してしまいました。

また、化粧品のECショップを運営する会社の場合では、「SNSの投稿は他の誰かがやっているだろう」と全員が思い込み、重要なプロモーションの告知が完全に抜け落ちるということもあります。
これにより売上機会を逃し、会社の業績にも影響が出る恐れがあります。
小規模な飲食店でも、スタッフ間のコミュニケーションが不十分で、店内清掃や予約の確認業務が放置されてしまい、来店したお客様の満足度を下げてしまうケースも多々あります。
このように、小規模事業者においては特定の業務が「誰かがやっているだろう」という思い込みから放置され、業務効率や会社の信用に大きなダメージを与えることが多々あるのです。
2. 事例で見る業務停滞トラブル

AさんとBさんのすれ違いが生んだ業務停滞の実態
小規模事業者では、従業員が少ないため、それぞれが複数の業務を担当し、仕事の役割が明確でないまま進むことがあります。
そのため「相手がやっている」と思い込み、結果的に誰も手をつけない業務が生じることがあります。
たとえば、ある食品輸出会社の例を挙げてみましょう。
中国向けの輸出業務を担当するAさんと、国内食品卸売業務を担当するBさんは、それぞれが互いに業務をサポートし合っていました。
しかしあるとき、中国への輸出に関する商品の梱包作業について、Aさんは「Bさんが対応してくれるだろう」と考え、一方Bさんは「輸出関係だから当然Aさんの担当業務だろう」と思い込みました。
結果、商品の発送が間に合わず、大切な取引先への納品遅延が発生しました。
また別の事例では、化粧品販売を行う会社でSNS運営に関する業務の割り当てが曖昧になっていました。

新商品の告知投稿について、Aさんは「BさんがInstagramへの投稿をするはず」と考え、Bさんは逆に「Aさんが投稿するだろう」と認識していました。
結果的にSNS投稿が完全に放置され、新商品の認知度が上がらず、想定した売上を大幅に下回る結果となったのです。
こうしたトラブルの本質は、業務の役割分担や業務フローの曖昧さにあります。
従業員同士がお互いに「きっと誰かがやってくれているだろう」と考えた瞬間に、業務停滞のリスクが生まれます。
特に小規模事業者ほど、このような業務の曖昧さが深刻な問題に発展しやすいのです。
3. 業務放置が起きる心理的要因

「誰かがやるだろう」という危険な思考パターンを解説
小規模事業者で業務放置トラブルが発生する根本原因は、「誰かがやってくれるだろう」という無意識の心理にあります。
これは「社会的手抜き(ソーシャルローフィング)」と呼ばれる心理現象で、責任の所在が曖昧になると人は自然と業務への意識や行動力が低下してしまう傾向があるのです。
特に小規模な職場環境では、「少人数で顔を合わせているのだから、言わなくてもわかるだろう」という思い込みが生まれやすくなります。
例えば、食品卸売会社であれば、「あの商品補充はいつも誰かがやっているはずだ」と深く考えずに放置したり、ECショップ運営であれば「キャンペーン告知は担当の誰かがSNSに投稿するだろう」と漠然と考えてしまい、結果的に重要な業務が抜け落ちることにつながります。

人は「誰かがやっているだろう」と考えると、自分が行動を起こすことへの責任感や緊張感が薄れ、「やらなくても問題ないだろう」という楽観的な思考に陥ってしまいます。
しかし、全員がそう考えてしまうことで、誰も手をつけない状況が生まれ、結果的に業務の停滞やトラブルを引き起こしてしまうのです。
小規模事業者がこの問題を防ぐためには、「誰かがやるだろう」という心理を明確に意識し、それぞれの担当業務を「見える化」することが必要となります。
4. 業務放置の問題把握と対策

「放置されやすい」業務チェックリスト
業務放置トラブルを未然に防ぐためには、まず「どのような業務が放置されやすいのか」を明確に把握することが重要です。
小規模事業者では日常業務に追われるあまり、特に『重要だが緊急ではない業務』が抜け落ちやすくなります。
以下に業態別の具体例とチェックリストを紹介しますので、自社の業務と比較しながら確認してみてください。
【食品卸売業の業務チェックリスト】
- [ ]発注後の商品納品スケジュール確認
- [ ]在庫管理表の定期的な更新(特に在庫過多・不足品の確認)
- [ ]取引先への定期連絡やフォローアップメールの送信
- [ ]クレームや返品処理の担当者割り当ての明確化
【化粧品販売・EC運営業の業務チェックリスト】
- [ ]商品ページの在庫状況・価格情報の更新確認
- [ ]SNSアカウントでの投稿スケジュールの明確化
- [ ]キャンペーンやセール情報の告知漏れ防止(SNS、メルマガなど)
- [ ]顧客問い合わせメールへの対応担当者の明確な割り振り
【飲食店の業務チェックリスト】
- [ ]予約台帳の定期的な確認・共有
- [ ]食材在庫や賞味期限管理の責任者明示
- [ ]店内清掃や衛生管理スケジュールの明文化
- [ ]シフト表の更新・スタッフ間の共有
このようなチェックリストを用いて、各業務を定期的に点検し、担当者を明確化することで業務の放置を防ぎ、トラブルが起こる前に早期対処が可能となります。
まずは、自社の業務を棚卸し、「誰かがやっているだろう」という曖昧さを排除していきましょう。
5. 業務放置トラブルを防ぐ具体的な解決策

今日からできる「業務の見える化」実践ステップ
業務放置トラブルを未然に防ぐには、「業務の見える化」を徹底することが最も効果的です。
「見える化」とは、誰が何を、いつまでにやるべきなのかを、目で見て明確に分かるように整理することを指します。
ここでは、小規模事業者でも簡単に導入できる「見える化」の具体的なステップを紹介します。
ステップ①:業務の棚卸しとリストアップ

まず、日々の業務をすべて洗い出し、一覧表にまとめましょう。
– 食品輸出なら「受注、梱包、発送、請求書作成」など。
– ECショップ運営なら「商品ページ更新、在庫管理、SNS投稿」など。
一覧にすることで、業務全体の把握ができ、放置されがちな業務も明らかになります。
ステップ②:担当者と期限を明確化する
業務一覧表にそれぞれの業務の担当者名と、具体的な期限を記入します。

こうして担当と期限が明確になることで、「誰かがやるだろう」という曖昧さを防ぐことができます。
ステップ③:情報共有ツールの導入

共有された情報をリアルタイムで確認できる仕組みを導入します。
おすすめは無料でも使えるタスク管理アプリ(例:Trello、Asana)や、Googleスプレッドシートなどです。
これらを活用すると、スマートフォンやパソコンでいつでも業務進捗を確認できるようになり、作業漏れや遅れをリアルタイムで把握できます。
ステップ④:定期的な進捗確認の習慣化

最後に、週に1度は進捗状況を従業員同士で確認し合う時間を設けましょう。
たとえば毎週月曜日に15分間のミーティングを行い、「先週の未達業務」と「今週の業務」を共有します。
短時間の確認習慣を作ることで、放置や業務漏れを未然に防げます。
「業務の見える化」は、複雑な手間をかけなくても、誰でも簡単に始められます。
まずは今日からこのステップを一つずつ取り入れて、業務放置トラブルを根本から解消しましょう。
6. 明日から実践!簡単タスク管理術とコミュニケーション改善法
小規模事業者に最適な具体的テクニックを紹介
業務を円滑に進めるためには、簡単で実践しやすいタスク管理術とコミュニケーション改善が不可欠です。
以下の方法を明日からでもぜひ実践してください。
簡単タスク管理術

- 朝の5分間ミーティング
毎朝5分間の短いミーティングを行い、その日の各自のタスクを簡潔に共有します。これにより「誰が」「何を」「いつまでに」やるのかを明確化し、認識のズレを防ぎます。 - 付箋やホワイトボードを活用する
目に見える場所にタスクを書き出し、終わったら消していくことで、進捗状況が一目瞭然になります。誰もがすぐに状況を把握できるようになります。 - デジタルツールの導入(例:タスク管理アプリ)
タスク管理アプリを使えば、外出先でもリアルタイムで進捗確認や報告が可能になります。TrelloやAsanaなどの無料で使えるツールがおすすめです。

コミュニケーション改善法
- 報告・連絡・相談のルールを明確化
「業務の完了後すぐに報告する」「トラブルが起きたら即座に相談する」など、コミュニケーションのルールを決めて徹底しましょう。 - 定期的な振り返り会(週次・月次ミーティング)
定期的に短時間の振り返り会を設けることで、業務上の課題やコミュニケーション上の問題を素早く共有し、改善策を話し合うことができます。 - チャットツールの積極的活用
SlackやLINEなどのチャットツールを使って気軽に情報交換できる環境を作ります。リアルタイムのコミュニケーションが可能になり、業務上の連絡漏れを防げます。
これらのシンプルな工夫を導入することで、業務効率が劇的に向上します。
ぜひ、明日から職場で取り入れてみてください。
7. 業務キャパを超えたらアウトソーシングも一つの手!

外部の専門家に頼るメリットと活用事例
小規模事業者では限られた人数で多くの業務をこなす必要がありますが、時には業務量がキャパシティを超えてしまうことがあります。
そんな時こそアウトソーシング(外部委託)の活用が有効です。
例えば、海外向け食品輸出業務やSNS運営、ECショップ運営といった複数業務を同時進行している小規模事業者の場合、繁忙期には業務が重なり対応が難しくなることがあります。
そこで、専門的なスキルが必要なECショップのサイト運営やSNS投稿業務などを外部の専門家にアウトソーシングする選択肢があります。
アウトソーシングを活用することで得られるメリットは以下の通り。
- 専門的な業務をプロに任せることで、高品質な結果が得られる
- 社内リソースを本業やコア業務に集中させることが可能
- 短期間で業務を遂行できるため、生産性の向上につながる
このように、適切なタイミングでアウトソーシングを活用することは、小規模事業者にとって業務の効率化を実現する重要な戦略です。
まとめ

業務の重複管理や「相手がやっているだろう」という曖昧な思い込みは、小規模事業者にとって深刻なトラブルの原因となります。
業務を「見える化」し、明確なコミュニケーションと管理体制を構築することで、このような問題を未然に防ぎ、業務効率を格段に向上させることができます。
また、業務がキャパシティを超える場合には、アウトソーシングを活用して専門的なフォローを受けることも効果的です。
まずは今日から、一つ一つの業務の役割を明確化し、最適なリソース配分を心がけていきましょう。