「これは、一度きりになるかもしれないワインです」
スペインの小さなワイナリーから
届いたワインの説明に、
そんな一文が添えられていました。
ラベルに書かれていたのは、
《La Última Cepa(ラ・ウルティマ・セパ)》。
スペイン語で、「最後のブドウの樹」。
その言葉が意味するものを知ったとき、
私は思わず息をのんだのです。
🌳 樹齢120年——“最後の1本”から生まれた命のワイン

このワインを生んだのは、
スペイン中北部の標高800mの山間にある、
人口300人にも満たない小さな村。
この地域では、
昔から祖父母の代まで家族単位で
ワインづくりを行ってきました。
しかし時代が進み、村から若者が離れ、
商業ワインの波が押し寄せたことで、
多くの家族が畑を手放しました。
そんな中、「ラ・ウルティマ・セパ」は
奇跡的に生き残った
たった1本の樹齢120年の古木から始まります。
寒波と干ばつ、地滑りと害虫。
あらゆる試練を乗り越え、
それでもなお立ち続けていた一本のブドウの樹。
その樹を見て、造り手は
こう決意したのだそうです。
「この木がまだ生きているなら、僕ももう一度やってみよう」
ワイン造りをやめ、
バルセロナで暮らしていた
造り手が村に戻ったのは、
その決意から1週間後のことでした。
🍷 “ラベル”に込められた家族と土地の再出発

こうして生まれたのが、
La Última Cepa。
初ヴィンテージは、
わずか634本。
すべてその古木の果実のみを使い、
完全無農薬・無補糖で造られた
純粋な自然派ワインです。
ラベルは印刷所ではなく、
村の印刷屋で一枚一枚刷られたもの。
手書きのような字体で書かれた言葉が、
小さく添えられています。
“Para la tierra, para mi abuelo, para empezar de nuevo.”
「この土地のために。祖父のために。ここから、もう一度。」
そう、これは単なるワインではありません。
村と、土地と、家族の記憶を呼び起こすための
再出発のしるしなのです。
👃 味わいの奥にある“静かな決意”

La Última Cepaをグラスに注ぐと、
最初に立ちのぼるのは
完熟プラムや黒スグリの香り、
そしてその奥に、
どこか乾いた木の皮のような大地のニュアンス。
飲み進めると、果実の甘さと酸味、
ほんのわずかな塩気が
バランスよく調和し、舌に残るのは、
「時間の記憶を飲んでいるような深さ」。
それは、「特別に作られた味」というよりも、
「この地の自然と共に生きてきた味」。
無理に媚びず、飾らず、
ただそこにある“静かな誇り”。
飲むごとに、その背景にある
人の想いが滲んでくるような、
まさに“心で飲むワイン”。
📖 ラベルは、物語の扉

ワインボトルのラベルは、
ただの装飾ではありません。
それはときに、
何世代にもわたる祈りや想いを、
たった数行に凝縮した
「物語の扉」でもあるのです。
あのワインが、
なぜ「最後の樹」と名付けられたのか。
ラベルの小さな文字が、
どれだけの年月と重さを背負っていたのか。
それを知って飲む一杯は、
まるで別の味がする。
「あの木があったから、僕たちは戻ってこられた」
——それは、ワインで綴られた家族の再生の物語。
ラベルは、ただの飾りではなく、
造り手の人生や、土地の記憶、
そして家族の物語が込められた
“小さな手紙”のようなものです。
次にワインを手に取るとき、
なんとなくデザインとして見ていたそのラベルに、
少しだけ「想い」を重ねてみてください。
きっとその1本が、いつもより少しだけ深く、
あなたの心に残るものになるはずです。

